自己流登山歩行術

登山中は、如何に楽をして安全に歩くかを考えていた。
ほとんどは本で学習したことを自分の身体で試して少しずつ自分の身に染み込ませていったが、時々は自分で考えて試したこともあった。
福島正明著「中高年登山なんでも百科」(1997年・東京新聞出版局)は少し古い本だが、歩き方はとても参考になり自分にとってはバイブルの様な本。

1 小股歩き(全場面)
登山に関する全ての本で、歩き方の基本として「小股歩き」は真っ先に上げられる。
ただし登山では様々な場面があり、例えば飛び石伝いに歩く場合などは物理的に小股歩きできない場面もあるので臨機応変さは必要。
小股歩きのメリットは、①バランス確保、②疲労軽減。
「バランス確保」は登山で最も大切で、例えば踏み出した足の先にぐらついた石があった場合に大股と小股のどちらが咄嗟に体勢を整えやすいか想像すれば分かり易いと思う。
「疲労軽減」についてネット検索してみると、日常歩行の場合で「身長の約38%の歩幅が最も経済的(エネルギー消費の少ない)歩幅」という実験に基づく考察があった。
この実験によれば、最も効率良い歩幅を基準に歩幅を広くするほど急激に非効率(疲れやすい)になり、歩幅を短くすれば緩やかに非効率になることも分かる。(※)
自分(靴サイズ25cm)の場合、平坦路での歩幅は55cm前後、登り坂の場合で30~50cm前後。(歩幅=前足爪先から後ろ足爪先までの長さ)
日常の経済的歩幅より短く身長の20~30%ほど。ちなみに普通股で70cm前後。大股で85cm前後。
日常では、格好良く歩きたい時や筋力アップ目的の時は普通股or大股歩きしているが、それ以外の時はなるべく小股歩きを心掛けている。
※【参考】長崎大学学術研究成果レポジトリ「管原正志:歩行に関する一考察」から引用

2 重心と足裏の一致(全場面)
登山中は、バランス確保のため身体の重心と足裏を一直線にして立つことを絶えず意識しながら歩いていた。普通の平坦路ではあまり問題はないが、坂道では重心が安定しないとバランスを崩して事故に繋がる危険がある。

足を踏み出す前には後ろ側の足に重心を残し、踏み出した直後にしっかり前足に重心を移すよう心掛けバランスに注意した。
日頃のランニング中などからなるべく重心を意識するようにし、登山中の平坦路もなるべく重心の意識を心掛けた。
重心を意識して歩くようになると、急坂などの場面でもどういう体勢にすれば一番安定するか身体が自然に反応するようになると感じた。
ちなみに「中高年登山なんでも百科」で福島氏は「頭、腰、後ろ脚が同一重力線上に重なって身体の軸をつくりながら歩く」という表現を使っている。

3 お年寄り歩き(登り場面)
年をとると足腰の筋力が弱まる。必然的にあまり筋肉を使わずエネルギーを節約する歩き方をする。お年寄りは歩く時に身体の重心を少し前に傾け、その傾きを利用してほとんど力を入れず足が自然に前に出る歩き方をする。(と思う)
登山旅行中の登り坂の場面でなるべくエネルギーを節約する歩き方を試した結果、この高齢者歩きの方法がとても楽に感じた。
肝心なのは、「身体の重心を少し前に傾け」、「重心の移動を利用し足を自然に前に出す」の2点。
ただ、エネルギー節約のため足を上に上げずに前に出す意識を強く持ち過ぎると、デコボコ道などで転びやすくなるので用心が肝要だ。
また、登山道の状況によってはこの歩き方では無理な場合も当然あるので、使い分ける必要がある。
なお「中高年登山なんでも百科」中では「歩行姿勢は前傾にならないように後ろ脚で立ち、前脚に体重移動の力を利用しながら身体を前に運ぶ」(193頁)という歩き方が疲れない歩き方として紹介されている。
似ている気もするし、違う気もする。
福島氏は「前傾にならない」よう指導しており、私の歩き方は「少しだけ重心を前に移す」力を利用して前脚を出す方法で違いがある。
福島氏の歩き方がバランスを大切にした理に叶った方法だと思う。

私の歩き方は、2で述べた「重心と足裏の一致」と厳密には矛盾しているとは思うが、危険のない範囲で試した結果楽だと感じた。

4 足底全体着地(下り場面)
雨の日に下り坂の木道や樹の根の多い場所や岩場などは滑らないように気を遣う。
樹の根の多い場所は変化が多いため臨機応変に対応するしかない。
雨の日に限らず下り坂で滑らないようにするためには、足裏の着地方法と脚力の方向が大事。
最初は足裏が滑らないように、爪先から着地し後ろに足を引くイメージで歩いた。
しかし、絶えずこのイメージを持ち続けて歩くのは精神的に疲れ、持続が難しい。
改めてネットや本を調べると、「足裏全体で着地、上から下に前足の力をかける」方法が最も摩擦力を高め滑りを防止してくれる。
「足裏全体で着地」は、安定性を確保しつつ、摩擦面積を広くするため。
「上から下に前足の力をかける」は、滑りを防ぎ、地面に伝わる摩擦力を高めるため。
前足への力のかけ方は「そっとゆっくり」ではなく「急がず確実にしっかり」。

ただし一気に前足に力をかけることは、万が一滑れば大きく転びそうという不安に結びつくため、実地で何度も試しながら身につけるしかない。
我が故郷の青森市は豪雪地帯で、雪道歩きやアイスバーン歩きの場面が多いが、雪道歩きの鉄則は「小股歩行、足裏全体着地、上から下に着地」ということで登山歩きと共通。
ちなみに「中高年登山なんでも百科」中では「登山道ではつま先から着地するイメージで歩くと、靴底全体で着地するような歩き方になる」(194頁)と紹介されている。
いずれにしろ雨の日の歩行は大変。細心の注意と万が一の対応も念頭に入れたい。

5 つま先立ち(接地面積が狭い場面)
岩場を登る場合などで、足の置き場所が狭い場合は、足裏全体を地面に着くことが出来ない場合もある。
登りの場面では自然につま先で立つことになる。
下りの場面では、靴の内側サイドを使ったり、かかとを使ったりしようとする場面もあるかもしれないが、原則的にはすべてつま先で立つ。
靴のサイドやかかとを使うと、バランスを崩して事故に繋がる危険性が高くなる。
特に下りでかかとを使うと、かかとの足の置き場所を正確に目視し難いため、微妙に足がずれてバランスを崩す可能性が高い。(実際自分でバランスを崩しそうになった時があった)
下山時の急斜面等では態勢的につま先立ちし難い場面もあると思うが、やむを得ない時は身体を横向きや後ろ向きにする。(あまり好ましくないが)
なお、「中高年登山なんでも百科」では岩登りにおける「外側と内側エッジの使い方」(231頁)も紹介されているが、私のような岩登り初心者は先ず「つま先立ち」を完全にマスターした後のテクニックになる。

6 足の着地点を見る(急斜面など)
平坦な登山道歩きではあまり意識しないが、石ころ道や坂道登山道では誰でも道の状態を見ながら歩いている。
ところが結構漠然に道を見ていたり、2~3歩先の着地点も気にしたりして、今着地しようとする地点への注意が疎かになり、チョットしたデコボコや樹の枝や根などを見落として躓いたりしがちになることがある。平坦な場所なら見落としが大事故に繋がる確率は低いが、急斜面では大事故になりかねない。
普段の生活で舗装道路歩きに慣れているためどうしても先を見がちで足元の注意が疎かになりがちになる。
特に急斜面などの危険地帯では、「次に足をどこに着地するか」の場所を足を着くまでしっかり見て着地することが、足のグラツキを防いでくれる。
ただし高橋庄太郎が「5歩進んだら顔を上げる」と話すとおり前方にも気をつける事。下ばかりみていると私の様に樹に頭をぶつけるような失敗をしてしまう。

以上の6点が、登山道を楽にかつ安全に歩くため特に注意した点だった。
なお「中高年登山なんでも百科」には、この他にも歩き方のテクニックが沢山紹介されていて参考になる。
以下にその項目をかいつまんで紹介する。
・膝上げ一本足立ち歩行(坂道歩きの基本姿勢で、重心を後ろ脚1本にしっかり乗せる)
・大股歩行(飛び石歩行、高段差登り、ガレ場・ザレ場登り、等)
・逆ハの字歩行(斜面の登り歩行が長く続く時に脚力に自信のない中高年登山者に有効)
・つま先立ち歩行(距離の短い急斜面で有効)
・腰回転式歩行(足の筋力を使わず、体重移動と腰の回転を利用して疲労を軽減する歩行)
・小刻み歩行(足を5cmほど前に進めるような感覚で早く小刻みに下る下山時の万能テクニック)
・身体のバランスを保つ(運動をゼロにしないことで身体のグラツキを防ぐ)
・呼吸を意識する

まだまだあるが、キリがないのでこの辺りでオヒラキ

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