体力実験登山 ~ 青森市・東岳縦走

「山の遭難」(羽根田治著・H22年平凡社新書)冒頭に著者の遭難体験談がある。
平成17年5月に西表島横断を実行。標高200m前後、歩行距離22km、コースタイム12時間。
ほぼ平坦地の歩行で楽勝のつもりで出発したが途中から熱中症で身体に異変発生。
同行の友人の助けでビバーク。日帰り予定が1日延び翌日疲労困憊状態で下山。
「山での遭難はいつ誰に起きても不思議ではない」体験を遭難ライター自ら実体験。

今年7月に私が朝日岳から祝瓶山縦走中に体験したことも程度差はあるが似ている。
この縦走で一番堪えたのは暑さであり熱中症気味(脱水症状気味)だったと思う。
一方で縦走旅行中に反省したのは計画全般で実際の歩行時間が超過したこと。
最大の原因は計画時間を標準コースタイムより短縮調整したこと。
事前にブログ等で情報収集し過去の経験も加味し可能と判断したが甘かった。
高温気候が体力消耗~時間超過の主因と思うが、少食料も体力消耗要因の疑いは残る。
一方で水分を摂り過ぎるとバテるという意識もあり食料の多寡の適否が分からない。
そこで発想転換して食料をどこまで節減しても歩けるか試そうと実験登山を企画する。

「すきっ腹ウォーキング」(片岡幸雄著・H19年ベースボールマガジン社新書)中の実話。
高血圧等の健康に不安を抱えた人達を対象に健康改善キャンプを実施した話。
朝6時起床~朝食無し~山中湖周囲14kmジョギング~11時昼食~昼寝~運動~夕食。
2泊3日続けると参加者の血圧低下、末梢循環良好、1日平均1100kcal食事で達成。
厚労省が定める1日の必要量の半分のカロリーで参加者全員がむしろ健康になった。
相当運動しているにも関わらず厚労省の定めるカロリーの半分で足りるとは驚き!

ということで今回の実験は私の地元青森市民の憩いの山・東岳(標高652m)の登山。
登山口の駐車場から往復2時間で登山できる山を少し遠くまで縦走する実験。
出発地(標高70m)~東岳(652m)~大平山(540m)~久栗坂林道(70m)~出発地・終
過去に2回歩いて休憩を除き5時間(国道歩きを入れて)ほどで周回している。
今回は朝から食事を摂らず歩き続ける実験。結果的にほぼ疲労なく速度も普通並。
水分補給も沢水を100cc飲水1回と4時間経過時に100cc飲水1回の計2回。
更に縦走終盤に未だ体力があったため東岳にもう一度登頂してから下山した。
今回の実験からは食料摂取量と体力や疲労には密接な関係性はないと感じた。

今回の登山は実験目的で多少負荷を増やそうと日帰りだがザック重量を重くした。
ザックには水1.5kg、食料1kg、雨合羽その他で2.5kg。ザック自重1kgを加え計6kg。
2回目の東岳山頂では折角持参した食料なので小玉ミカンを2個食べた。
帰宅後に浴場で体重を計測すると約3kg弱体重減少していた。水不足の自覚は薄い。
しかし背中には相当発汗があったので体重減の主要因は水分発散と推測。

「山に登る前に読む本」(能勢博著・H26年講談社ブルーバックス)中のエネルギー計算。
年齢65歳、体重70kgの男性Aさんが常念岳(標高2857m)の登山実験に参加。
持久力は最大酸素消費35mL/kg/分で並以上。荷物5kgで小屋泊り1泊2日の登山。
実験結果のエネルギー消費は7kcal/分で4時間の登坂で1680kcal。(小数以下切上)
安静時でもエネルギー消費する分を差し引いた実質登山消費分は約1400kcal。
茶碗1杯分のご飯が150kcalとした場合茶碗9杯分に相当。

同書では登山に必要な筋肉の燃料として解糖系と好気的代謝系を上げている。
「解糖系」は危険地帯を素早く通過するため必要な短期持続系のエネルギー。
「好気的代謝系」は「有酸素系」とも呼ばれ縦走登山等に必要なエネルギー。
比較的短時間なら糖質と脂質が使われ長期になるとタンパク質も使われるらしい。
素早いエネルギー供給には向かないグリコーゲンと脂質が主な栄養分。
グリコーゲンは炭水化物から供給されるため登山前に炭水化物摂取を勧めている。
(本文18頁~40頁を要約。数値データは切り上げ等で加工した。)

実験と書籍の内容から見えてくることは登山中の食事は必須ではないとの推測。
登山前日の夕食を普通にとれば翌日の登山には相当対応できるように思う。
夕食1食だけで翌日の登山を完登できるかは更に実験が必要だが可能性は有る。
そして夕食の量は茶碗9杯分のご飯が果たして必要か?
それ以外の栄養はどれだけあるのが望ましいか?
来年にでも機会があれば実験してみようかな…

同書中には「疲労を防ぐ歩行術」が紹介されている。(本文82頁~84頁)
「乳酸を産生しないよう歩く」「膝関節をうまく使う」「汗を出さないよう歩く」
「汗を出さないよう歩く」については実体験上共感するが、簡単ではない。
更に「高地では脱水が進み平地に比べより多くの水分補給が必要」(146頁)とある。
登山中は衣服の着脱で適切に体温調節しゆっくり歩くことで発汗を抑えることが重要。
そして標高が高いほど適切に水分補給することが疲労を抑えることに繋がる。
高温時の登山では薄着でゆっくり歩くしか疲労軽減の手段はないのかもしれない。
なお疲労と乳酸の因果関係は近年研究で否定され疲労の主犯は「活性酸素」。(※注)

※注
「疲労の正体」(週刊ダイヤモンドH28.11.12号・40頁)や、
「すべての疲労は脳が原因」(梶本修身著・H28年集英社新書・62頁~)に記載あり。

登山出発地点(新運動公園陸上競技場建設中)
登山出発地点
(新運動公園陸上競技場建設中、H30.12完成予定)

林道脇のため池越しに東岳を眺望
林道脇のため池越しに東岳を眺望

登山口駐車場を通過
登山口駐車場を通過
(この日は未だ車無し→登山者無し)

途中休憩展望所から青森市街地を眺望
途中休憩展望所から青森市街を眺望

東岳山頂到着(1回目)
東岳山頂到着(1回目)

縦走途中に見かけた倒木
縦走途中に見かけた倒木

出発地点に戻る路上から東岳眺望
出発地点に戻る路上から東岳を眺望

登山口駐車場を2度目の通過
登山口駐車場を2度目の通過
(駐車車両が4台、この後7人ほどすれ違う)

楓の上の枝葉から紅葉が始まっていた
楓の木の上部の枝葉から紅葉が始まる

東岳山頂到着(2回目)
東岳山頂到着(2回目)

下山道の民家の庭先にいた2匹の狸
下山道の民家の庭先にいた2匹の狸

08:00 登山出発
08:45 登山口駐車場・通過(1回目)
10:00 東岳山頂・着(1回目)
10:40 大平山・通過
11:25 久栗坂林道
12:10 国道4号
13:45 登山口駐車場・通過(2回目)
14:50 東岳山頂・着(2回目)
16:20 出発地点・着

歩行時間 8時間20分
歩行距離 27km

登山ルート(ルートラボで表示)

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