トムラウシ山遭難事故と新型コロナ対応の類似

以前ブログに書きましたが今年も長期旅行を計画中です。
ところが新型コロナのため先行き不透明になりました。
現時点では飛行機予約、宿予約は保留状態です。
旅行計画ではトムラウシ山にも行く予定です。

準備のため「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」を読みました。
(羽根田治ほか共著、山と渓谷社2010年8月刊)
この他ネットにも事故報告があります。
「トムラウシ山遭難事故調査報告書」
http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf
事故の概要を簡単に記します。

2009年7月13日(月)~17日(金)4泊5日大雪山系縦走のツアー登山。
うち2泊は初日と最終日の温泉宿泊。残り2泊が山小屋泊。
参加者15人。女10人、男5人。年齢は55歳~69歳。料金15万円。
ガイドは男3人。リーダー61歳と38歳と32歳。荷物運搬1人が同行。
13日 温泉に宿泊し翌日から山旅する打合せと懇親
14日 強風、ガス晴。旭岳温泉~旭岳~白雲岳小屋。大きなトラブル無
15日 少風、小雨。白雲~忠別岳~ヒサゴ沼小屋。人により疲労差大
16日 強風、雨。ヒサゴ小屋~トムラウシ迂回。トムラウシ前後で遭難発生
死者 8人(内訳)リーダー1人、参加者女6人、男1人

事故の直接原因
1. 16日出発時は強風雨だが天気は徐々に回復と予想して外れる
2. 出発時の悪天候でも参加者に特別な防寒対策指示はなかった
3. 出発3時間半後の北沼通過の際、沢徒渉で苦労し低体温者発生
4. 体調不良者の処置に時間を要し他登山者にも低体温が蔓延
5. 悪天候と参加者の体調不良増加でガイド体制が崩壊

事故の間接要因
1. ツアー登山募集時の参加者の力量判定が不十分で体力差発生
2. ツアー登山日程上、多少の悪天候でも予定消化したい可能性
3. 防寒対策や防水対策に個人差があり安全の差に繋がる
4. 山小屋2泊3日登山のための食料が参加者毎十分だったか不明

事故報告のポイントと私見
登山は危険と表裏一体のスポーツ。
登山の危険要素は、道迷い、危険地帯通過、天候が主。
遭難原因では道迷いが最多、また滑落や雪山遭難も時々聞く。
道迷いや滑落はベテラン指導者の付添いで相当抑止できる。
そこでベテランが付き添うツアー登山が近年人気が高い。
今回のツアー登山は上級向けで相当程度の体力のある事が前提。
しかし天気が悪化した15日時点で各人に疲労差が目立った。

16日は早朝から「台風並み」の天候の中を出発してしまう。
出発3時間後には隊列が乱れて別の登山グループに追い越される。
更に2時間後到着した北沼で洪水の様な水流を徒渉せざるをえない。
沢徒渉で濡れが拡大した事で体温を奪われる人が発生する。
更に各人の沢徒渉の間他の登山者を待たせ低体温症者の増加を招く。
この「北沼での行動」が結果的に遭難の直接の要因となった。
そして悪天候下で各人の体力差がある中の強行出発が間接要因。

更に無事生還者の中にも一時意識不明になった人が3人いる。
また同日に大雪山系の別の場所で別々の登山者2人が死亡。
とても過酷な天候下での登山であった事がわかる。
一方ツアー参加者の10人は無事生還し低体温症でない人もいる。
これは防寒対策や体質的に寒さに強いという事が考えられる。
また同じ避難小屋から同じく出発した別グループ6人は全員無事。
こちらのグループは今回の登山に備え十分な訓練を積んで来た。

登山は仲間と楽しむスポーツでもあるが基本は個人スポーツ。
道迷いやケガでは仲間同士の助け合いで課題解決できる事もある。
一方で個人間の力量差が全体の統率を妨げる場合もある。
今回は1人を助けようとして8人の大量死を招いたとも言える。
更にツアー登山では予め決めた日程に縛られやすい。
安全優先でルート変更や日程変更する事は相当困難ではと思う。

私が同様の立場にいたらどうするか想定してみた。
私はツアー登山に参加した過去は無く今後もないだろう。
なのでツアー登山参加せずに同じ日程で行動していたと仮定する。
食料の余裕が少ない状態で4日目の避難小屋出発の朝。
当日は宿を予約済みで台風並の様な風が吹く朝。
出発時間は多少遅らせるかもしれない。
が他グループが出発すれば自分も出発すると思う。
判断基準は食料の残量と当日宿予約と天気の3つを比較勘案。
よほどの悪天候(木の枝が飛ぶなどの危険性)でなければ出発。
ただし一度出発したなら極端な話、宿まで休憩無しで歩く覚悟。
これに近い状態は2015年の水晶~鷲羽岳間縦走で体験している。
強風度はたぶん大雪の方が上と思うが私の場合は高度が高い。
この強風の縦走時は安易に休むと遭難すると思った。
悪天候のトムラウシで自分は生還できただろうか?

参考「山と渓谷2020年2月号」-単独行者の登山術31-より
日本アルプス縦走、北海道テント泊で単独行者に求められる体力レベル
・行動時間 10~12時間程度行動し続けられる
・標 高 差 累積標高2000mのアップダウン登山ができる
・スピード 1時間あたり450mの標高差を歩くことができる
・歩 荷 力 自分の体重の30%の荷物を背負い6時間以上歩ける

このトムラウシ遭難事故を今回のコロナ問題と比較して考える。
トムラウシでの強風を今日本を脅かすコロナだと仮定する。
コロナ対策のため外出自粛する事は山で避難小屋に待避する事と同じ。
コロナが心配な中で外出する事は強風時に避難小屋を出る事と同じ。
当然ながら避難小屋に留まれば強風(コロナ)は避けられる。
一方で避難小屋には食料が乏しいため食料調達が必要となる。

避難小屋で自ら食料調達できない時にヘリで救援食料を求めるか?
コロナで外出自粛しつつ私達は食料、水、電気等を使っている。
食料を作るには生産者、物流業者、販売者等多くの人が関わる。
私達は危険な事を他に任せ自らは安全第一を最優先にしている。
強風時に避難小屋にいて救援の食料を待つ事と同じ様に感じる。
当然ながら強風時に外出し危険に陥ればその救援等の負担が生まれる。
コロナの不安の中で外出しコロナに感染すれば医療の負担が生まれる。

無謀な外出は控えなければならない。
しかし見通しもなく避難小屋に留まり続けられるだろうか?
コロナで外出自粛が何時まで続くかの見通しがあるのだろうか?
安倍首相が3月に突然学校休業を表明した時は「2週間がヤマ」と言った。
今回は最初の2週間でコロナ拡大を止め次の2週間で減少させるらしい。
一方で食料や水や電力や医療や介護その他多くの分野の仕事は継続される。
それに伴う人の移動も当然止める事はできない。
そのため一部の電力事業者ではコロナの感染者が生じている。

私には「見通しもなく避難小屋に待避」し続けている感じがする。
生活に余裕のある人達が一生懸命「外出自粛」を呼びかけている。
そして「外出自粛」のため低所得の人達が明日の心配をしている。
(タイトル画像は2015年水晶岳山頂)

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