9月2日(土)
天気 晴のち霧
テント内で身体の火照りを感じウツラウツラ状態の夜中12時過ぎ。
お腹の調子が悪くなり、暗闇の中歩いて3分のトイレに向かう。
頭が半分睡眠モードのためフラつきながらトイレまで歩く。
夜中の12時台に1度、1時台に1度、2時台に1度。
合計3度のトイレ立ち。徐々に便の水分量が増加。
3度目のトイレ時には眠気はほぼなくなっていた。
下痢の原因を推理し始める。食料はほぼ毎日同じ物なので考え難い。
数時間前に飲んだスゴ乗越小屋前の水場の水を疑う。
塩素消毒の水と推測したが、昨日の剣沢キャンプ場職員の話を思い出す。
「塩素消毒した水でも煮沸して飲んでください。」
仮に塩素消毒の水だとしても腹下しの可能性があるとこの時点では考えた。
今日の今後の行動を考えて煮沸した水を準備しなければならない。
コッヘルに水を入れて沸騰させる。
一旦冷ましてから水袋に移す。
それを2度繰り返し約1時間で800ccほど消毒水を準備する。
今日はスゴ乗越小屋から黒部五郎小舎まで急ぎ足で約12時間の強行軍。
厳しい日程のため少しでも早めに出発したい。
余り食事をする気にならずナッツ類を少し口にする。
登山の途中で空腹になったら朝食を摂ることにする。
テントの収納を終えスゴ乗越小屋の出立が4時半。
ほぼ真っ暗の樹林帯の中を低照度のライトを頼りに慎重歩行。
腹具合の不調も重なり歩行速度は超スローペース。
1本残っていた野菜ジュース200ccが体力維持の唯一の頼り。
小屋から最初のピーク間山までの緩い登り1.8kmを1時間半かけて登る。
途中で腹具合に違和感があり腸内の有害菌の完全排出を2度試みたが排出無。
どうやら夜中の3回のトイレで不完全ながらほぼ出し尽くしたらしい。
間山から北薬師岳に向かう稜線に出た所で疲労と水不足の限界。
下痢による水不足、煮沸水の節約による水不足、朝食無での体力不足の限界。
稜線上の邪魔にならない場所で即席ラーメンを作り水と栄養補給を兼ねる。
煮沸した水は貴重なため、未煮沸の水を沸騰させラーメンを作って食べる。
対面方向から来た登山者3グループ7人ほどとすれ違う。
変な時間に変な場所で食事をする登山者と思われたことだろう。
エネルギーと水分を補給して幾らか元気を取り戻し登山を再開。
間山から北薬師岳まで約2.3kmを休憩を除き1時間半で歩行。少し遅い。
北薬師岳からは薬師岳の国特別天然記念物カールの絶景が美しい。
更に北薬師岳から薬師岳まで1.2kmを50分かけて登る。やはり遅い。
薬師岳山頂は一昨年にガスの中登っている。
今回は晴天時に登り絶景を拝めて嬉しいのだが疲労度が大きく座り込む。
疲労で座り込んでいた時にトレラン登山者から写真撮影を頼まれる。
他にも山頂に登山者がいてよほど断ろうかと思ったが腰を上げて応じる。
薬師岳山頂で今日の経過と今後の予定に思考を巡らす。
未明の出発から薬師岳山頂到着まで休憩込みで約5時間。予定の倍の時間。
とても今日の予定を消化できる状況ではない。
スゴ乗越ではテント泊は自分の他に2人。宿客は少なくとも1人いた。
しかし夜間の状況からは自分以外に腹をこわした人はいないようだ。
水で腹を下した経験は、記憶する範囲で過去に4回ある。
うち2回は名水の水場。但し飲用不適とされる場所の名水。
どちらも割と平坦な場所にあり周囲を人が歩けるような場所。
つまり人間の活動に伴う有害菌が水を汚していると推測される。
後の2回は山の水で、うち1回は一昨年の櫛形山に登った時。
櫛形山キャンプ場の水場も高低差の少なく人が動きやすい場所にある。
残りの1回は私の故郷の里山の沢水。
いつも飲んでいる沢水だったが流水量の少ない時の飲水で腹をこわす。
これらの経験から危険な水場について自分なりの判断基準を設けた。
平坦地の水場、人が汚し易い水場、流水量の少ない水場の3箇所が危険。
そしてスゴ乗越小屋の水場は平坦地に近い水場と推測される。
しかしスゴ乗越は正式な水場とされており多分塩素消毒等で問題ないハズ。
一般に子供や高齢者が食中毒になり易いのは腸が弱いのが原因とされる。
今回、他にも利用者がいる水場で私だけ腹を下したのは私の腸が弱いからか?
普段は特に腹が弱いと感じないが今回は食料を節減したため腸が弱まったか?
食料を節減したことで腸内の細菌バランスが壊れ腸内環境が悪化したと推測。
もし推測どおりならば基本的な登山・食料計画に問題があることになる。
薬師岳山頂の休憩中に「計画自体に問題のある登山継続は困難」を意識した。
一応薬師峠まで下ったあとで最終結論を出すことにして山頂を出発。
薬師岳山頂から薬師峠までは予定より早く下山する。
薬師峠の10分手前に沢水場があり1Lほど飲水する。
朝から5時間ぐらい水不足感があったため思う存分の飲水で生気が蘇る。
薬師峠に到着した時は登山の続行を少し考え出した。
ここから今日の宿予定の黒部五郎小舎まで当初計画(速足)で約7時間。
薬師峠までの下り道は順調でもこの先の登り道はまた予定より遅れそう。
黒部五郎小舎までは他に山小屋はない。20時又はもっと遅れるかも。
天気は徐々にガスが出てきている。夜間でガスになると遭難の危険も。
体調に問題を抱えたまま登山の継続は危険と判断。山を下る決断をする。
薬師峠から太郎平小屋に行って、昼食に小屋のカレーを注文する。
久しぶりのマトモ?な食事に少し感激する。
ガスから霧雨に変わり風も強くなり体感気温が低下。危険度が増す。
登山続行断念は正解とホッとする反面、挫折感も交錯する。
太郎平小屋から折立へ下山するルートは2年前に経験済み。
折立には無料のキャンプ場もあり今日はそこにテントを張って寝る。
折立からはバスの運行があることも以前来た時に知っている。
明日以降どうするかは、折立に到着後考えることにする。
太郎平小屋で昼食を終え、霧雨の中、折立まで約3時間で下山。
折立の駐車場はほぼ満車で、この日が土曜日だと思い出す。
最初は自分の他に1張だったテントが夕方には7~8張になる。
折立キャンプ場の水場の水は、そのままでは飲用不適らしい。
薬師峠で調達した水のみで食事と飲水を済ませ賑やかな環境で早々に就寝。
【後日談】
旅行終了後に今回のことを振り返っていて気づいたことがある。
過去の経験では水を飲んで腹に症状が出るまで概ね半日から1日以上かかる。
今回仮にスゴ乗越の水が原因だとすると6時間ほどで発症したことになる。
過去に比べると短時間での発症。もしかするとスゴ乗越以外が原因?
ハッと気づいたのは、剣沢キャンプ場の水場の水。
剣沢では夕方に到着後、まず管理所前の塩素消毒の水で飲水と夕食を済ませた。
そして翌朝、管理所前の水と少し離れた塩素消毒無しの水の両方を調達した。
その後の登山途中では両方の水を飲水。
東北の縦走旅で多くの沢水や安心そうな用水路の水を飲水して大丈夫だった。
その経験から剣沢の消毒無しの山水も大丈夫だと頭から思い込んでいた。
しかし改めて地形を考えると擂鉢型で汚染土壌がキャンプ場に集まり易そう。
私が勝手に作った危険水場の法則「人が汚し易い水場」に見事に当てはまる。
また過去の発症時間の経験に照らしても、半日~1日の発症に当てはまる。
旅行終了後の現在は、剣沢の塩素消毒無しの水の飲水が最も疑わしいと推測。
「水で腹を下した」事例をネットで調べてみた。
残念ながら登山中の飲水に限定した「水あたり」の事例は見つけられず。
東京都のHPにあった「水系感染症に気をつけましょう」のネット情報。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/health/05/2-1.html
また一般的な食中毒事例を紹介したネット情報もある。
http://www.niitaka.co.jp/products/pdf/eisei/eisei140210n.pdf
http://www.toshoku.or.jp/eiseijigyo/201210pdf/201210-2.pdf
最近の一般的な水質汚染事故発生状況に関する厚労省のネット情報。
(検索文字:厚生労働省 水質汚染事故の発生状況)
発症時間については様々なようで数時間~数日後まである。
「水あたり」の原因菌については断定が難しいらしいが様々あるよう。
主な菌は、大腸菌、カンピロバクター、赤痢菌、サルモネラ菌などらしい。
このうち大腸菌一つでも多くの無害の大腸菌から猛毒のO157まで多様。
水のことについては、今後また触れる機会がある。
04:25 スゴ乗越テント場・発
05:55 間山(10分休憩)
06:50 北薬師岳稜線(45分朝食休憩)
08:15 北薬師岳(5分休憩)
09:10 薬師岳(15分休憩)
10:45 薬師峠(30分休憩)
11:35 太郎平小屋(45分昼食休憩)
15:10 折立キャンプ場・着
歩行時間 8時間00分
歩行距離 17km